「スバル」 に見る確率論の基礎

ではコメント欄での予告通り,「スバル」 の解析結果を…とやるとニコリスト以外の人が置いてけぼりですので簡単に補足を.
「スバル」 とは,今号のパズル通信ニコリに掲載された読者参加型企画のひとつで,ルールの概略は以下のようになります.

  1. 参加者は,1 〜 500 までの数字のうちひとつを書いて送る.
  2. 第一ラウンドでは,参加者全員の数字の合計が偶数なら偶数を書いた人が,奇数なら奇数を書いた人が勝ち残る.
  3. 第二ラウンドでは,勝ち残った人全員の数字の合計を 3 で割った余りと,自分の書いた数を 3 で割った余りが一致した人が勝ち残る.
  4. 以降第三ラウンドでは 4 で,第四ラウンドでは 5 で,というように割っていき,勝ち残りを決める.
  5. 最後に残った人 (複数いれば全員) がチャンピオン.

私はこのルールを見て四ラウンドで終了なのかと思い,misha-sakuraba さんの書き込みにある 6 回戦や 7 回戦とは何のことだろう,と思ったのですが,それはさておき.ここでのルール解釈としては

  • 決着がつくまで,第六ラウンド,第七ラウンド…と行うものとする.
  • 複数人が一度に敗退して勝ち残りがいなくなった場合,最後に残っていた人たちをチャンピオンとする.

ということで進めることにします.

さて,コンピュータを使うにせよ使わないにせよ,参加者の人数を見積もらないといけないと思うのですが,ここでは前回の参加者数に準じて 200 人としましょう.前回の 「5 文字の言葉をひとつ書く」 より今回の 「1 〜 500 の数字をひとつ書く」 の方が簡単なので参加者も増えるかもしれませんがまぁいいでしょう.
まず第一ラウンドでは,各人が勝手な数を書いたとすると偶数が勝つか奇数が勝つかは五分五分です.各参加者が勝ち残れる確率も 1/2 なので,全体で期待値としては 100 人が残ります.なお,ここでチャンピオンが決定する可能性はきわめて低い (200 人中 199 人以上が偶奇のどちらか一方に偏った場合) ので無視します.
第二ラウンドも同様に (偶数が勝ったか奇数が勝ったかは,3 で割り切れるかどうかには関係ないので) 各参加者が 1/3 の確率で勝利し,全体の期待値では 33 人が残ります.なお厳密に言えば,1 〜 500 の中で 3 で割った余りが 0 or 1 の数字と 2 の数字は個数が違いますが,このような微小な差は以降無視します.ここでチャンピオンが決定する可能性も極めて低いです.
さて,では第三ラウンドでは各参加者が 1/4 の確率で勝利でき,人数が 1/4 になるのか…というと違います.第一ラウンドで 「2 で割った余り」 によってふるい落とされているので,ここで勝ち残っている数字を 4 で割った余りは 2 通りに絞られているからです.
具体的には,第一ラウンドで偶数が勝ち残った場合 (この事象を以降,「ラウンド 1 で勝ち残り数字の合計の余りが 0」 ということで R1(0) のように書きます),4 で割ると 0 または 2 余る数が残っています.これらの合計を 4 で割ると 0 または 2 余り,個々の参加者が勝ち残れる確率は 1/2 で平均 17 人が残ります (R1 とまったく同じ状況です).
R1(1) の場合,4 で割ると 1 または 3 余る数が残っているわけですが,これらの合計を 4 で割った余りは 0 〜 3 のいずれの数をも等確率でとります.したがって,R3(0) または R3(2) の場合はここで全員が敗退し,その全員がチャンピオンとなります.これが起こる確率は全体から見て 1/4 です.R3(1) または R3(3) の場合は各参加者が 1/2 の確率で勝ち残り,残った人数の期待値は 17 人になります.
R4 の結果は今までの結果と関係なく決まるのですが,残る人数の期待値はわずか 3 人.1 人のチャンピオンが決まる確率も今までより格段に高くなっており,計算すると R4 まで続いた場合の約 9.6 % となります (全員敗退はやはり無視できる確率です).全体から見ると 7.2 % ほどです.ただしこの数値は 「R4 に 17 人が残っていた場合」 の数値であって,この人数は前の結果で増減しますのでこれ以前にチャンピオンが決まる確率はもう少し高いと考えられます.
R5 に突入した時点で,R1 と R2 による絞り込みで,ここまで勝ち残った数字を 6 で割った余りはただ 1 通りに決まってしまっています.したがって,R5 の結果は全員勝ち残って R6 へ進むか,全員敗退して全員がチャンピオンとなるかのどちらかです.ここで,各人の数字を 6 で割った余りと R6 へ進む確率は次の表のようになります.

6 で割った余り 0 1 2 3 4 5
R6 へ進む確率 1 1/6 1/3 1/2 1/3 1/6

R3 を勝ち抜いたあと,各人の数字を 6 で割った余りは偶数である確率が 2/3,奇数である確率が 1/3 なので,R5 から R6 へ勝ち残る確率は 25/54.全体から見ると,R5 で決着がつく確率が 36.4 %,R6 へ進む確率が 31.4 %.R6 へ進んだとしても人数が非常に少ないので,7 で割る (= 1/7 の勝ち残り確率) R6 でほとんどの場合決着がつくでしょう…ということで解析終了.結局,これらの (ややアバウトな) 解析による決着ラウンド数とその確率は以下の表のようになります (なお,εは 「無視できるほど小さい確率」 を表します).

ラウンド 1 2 3 4 5 6 〜
確率 (%) ε ε 25 7.2 36.4 31.4

misha-sakuraba さんの 「R3,R5,R6 が各 1/3 ずつ」 というのにわりあい近いですね.R4 がかなり違うのが気になりますが….ここは本当は参加者の人数による二項分布を 3 回計算しないといけないから,その誤差が大きいのでしょう.もともとの参加者数の前提が違う可能性もありますし.ちなみに R5 決着と R6 〜 決着の配分比は,参加者数には (「無視できるほど小さい確率」 以外には) よらないんですよ.
さて,いよいよお待ちかねの (もう誰も読んでいないかも…汗),「どの数字を選ぶと有利か」 です.R1 と R2 はどれを選んでも同じなので運よく勝ち抜いていただくとして (勝ち抜ける確率は 1/6),まずは R3 での勝利確率を上げることを考えます.ここで,実はこのゲームの賞品は明言されていないので,あまりチャンピオンの人数が多いと賞品が価値の低いものになるおそれもあるのですが,とりあえずそれは考えないことにしましょう.すると,自分が敗退してしまわないうちにゲームが終わってくれたほうが有利であることになります.したがって,R3 で有利に事を運ぶためには奇数を選んでおいた方がよいことになります.このとき,1/2 の確率でゲームが終了してチャンピオン (33 人ほどいる) になることができ (全体から見ると確率 1/12),残りのうちでも 1/2 の確率で勝ち残ることができます (同じく 1/24).
次に,R3 でゲームが終わらなかった場合は R4 も運で勝ち抜き (同 1/120),R5 を有利に運ぶよう考えます.ここでも 「ゲームがここで終わる確率が高いほど有利」 と考えると,6 で割った余りは 3 ではなく 1 または 5 になるようにするとよいでしょう.このとき 5/6 の確率でゲームを終わらせることができます (同 1/144).ちなみにこの先は運なのでどうしようもないです.
まとめると,

6 で割った余りが 1 または 5 の数を選ぶのが戦略として最もよく,このとき勝利確率はおよそ 13/144 ≒ 9 %

となります.

また,このような不自然な差をつけないようにゲームを作る方法も明らかで,それは 「以前割るのに使った数すべてと互いに素な数で割る」 ことです.たとえば,素数列で割っていけばいいわけですね.ついでに,使ってよい数の上限もそれら割る数すべての倍数になっているとなおよいです.しかし,「2,3,5,7」 までだと 210 個しか使えなくてやや少ないし,その次の 11 の倍数を作ると多すぎるのでなかなか難しいでしょうね.
ということでおしまい.あー長かった.疲れた (途中休みながら書いています…飽きっぽいのでいつものことだけど).ちなみに,これはあとから考えたので私自身は偶数を書いていたりします (笑).